2013/02/22

『カラカラ KARAKARA』





監督:クロード・ガニオン
撮影:ミシェル・サン=マルタン
2012年日本・カナダ104分カラー
出演:ガブリエル・アルカン、工藤夕貴、富田めぐみ
2013.02.14 シネマQホール9にて
映画度:★★★/5*




大学教授の職をリタイア後、心の平穏を求め、カナダ・ケベック州のモントリオールから念願のアジアへやって来たピエール(ガブリエル・アルカン)。気功のワークショップを終え、帰国までの10日間を沖縄の島々を旅して過ごそうと考えていた彼は、那覇で道に迷っていたところを、純子(工藤夕貴)と明美(富田めぐみ)の友達ふたり組に助けられる。彼女たちと楽しいひとときを過ごしたのち、目的地の博物館で展示されていた素朴な織物に心奪われるピエール。それは、人間国宝平良敏子が織った芭蕉布だった。自分でも不思議に思うほど好奇心にかられたピエールは、芭蕉布工房へ取材の約束を取り付ける。


翌朝、ピエールが公園で気功の練習をしていると、昨日出会ったばかりの純子が現れる。流暢な英語を話す純子は、東京から移住してきた主婦で、那覇を案内するという。その時限りの縁に思えたが、その夜、ピエールのもとに再び純子が現れる。純子は夫・健一(あったゆういち)に殴られた顔を押さえながら、家出してきたと言い、ピエールの旅に同行したいと言い出す。お人好しのピエールは突然の展開に困惑しながらも、純子を放っておくわけにもいかず、しぶしぶ承諾する。

境遇も性格もまったく異なるふたりの波乱に満ちた旅が始まった。出発早々、鳴り続ける健一からの電話や、健一から逃げようとしてレンタカーを暴走させる純子に、ピエールは苛立ちを隠せない。しかしどこか憎めない魅力を持った純子との時間をいつしか楽しんでいるピエール。2人の間に奇妙な友情が芽生え始めていく…。オフィシャルサイトから)


この映画、最初はたしかにピエールの物語として始まるのだけれど、そこに闖入した純子の物語が最初のピエールの物語を浸食してしまう。もちろん純子のあり方が結果的に強引で、それに振り回されるピエールなのだから当然なのかも知れない。ではその純子の物語とは何か。それは暴力夫から離れ、純子は離婚を決意し、夫も同意するに至るというもの。この夫婦のことは電話でのやりとり、純子がピエールに話すこと、そしてほんの少しこの夫が登場する場面でわかるだけだが、これがあまりにも月並み。直接に夫婦のことは描かれないから、この月並みを月並みな話として受け入れるしかない。その夫婦不和に対する純子の葛藤は描かれているというべきかも知れないが、彼女の心情は月並み以外には伝わってこない。


では浸食されたピエールの物語は?。ラスト近くで純子はピエールのあり方、つまり周囲の人との関係の持ち方、もっと言えば相手の心情を無視したいわば無関心に怒りをぶつける。そして翌日無人島で二人が数時間を過ごしたとき、自分の生き方が間違っていたことに気付かせてくれたとピエールは純子に告白する。話自体は多いにけっこうなのだけれど、このラスト近くまでのピエールの間違った人生の空虚感は明確に演技されていない。ここまで見て初めてピエールはそういう心の隙間を持っていたから、何かを求めて旅にきたんだな~、と解釈できるだけなのだ。


そして見ている者にとっても、曖昧なピエールと強引な純子の共存だから、どちらか一人に感情移入して物語を生きることもしにくい。純子の夫婦問題の設定・描写は月並みでもかまわないから、心の空虚と、それを解決すべく沖縄にやってきたピエールという人物をもっと的確に描いて欲しかった。そしてカナダと日本ないし沖縄の合作映画であるとしても、沖縄の文化の色々を、単なる観光的紹介ではなく、もっと上手く物語の中にとけ込ませて欲しかった。




*註:★5個を満点とした映画度の評価に関しては後日説明の記事をアップする予定。簡単に言えばどれだけ映画的な映画であるかということで、作品の良し悪し・好き嫌いとは無関係。




2013.02.22   
ラッコのチャーリー


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