原題:Twixt (古めの英語でbetween、つまり「間に」というような意味らしい)
監督:フランシス・フォード・コッポラ
制作:American Zoetrope (2011) 89分カラー
撮影:ミハイ・マライメア・Jr
出演:エル・ファニング、ヴァル・キルマー、ブルース・ダーン
2013.01.19 桜坂劇場ホールCにて
この映画、日本の映画関連サイトでの観客などの採点は低め。フランスの映画サイト ALLOCINE で紹介されている新聞・雑誌の批評も最高の★5つ(カイエ・デュ・シネマ誌やル・モンド紙)から最低の★1つ(ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール誌やテレラマ誌)まであって評価が割れている。でもきっとこの作品が『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』のフランシス・フォード・コッポラの映画だからなのではないだろうか。人々はコッポラだから『ゴッド…』や『地獄…』のような作品を期待するから、今さら『胡蝶の夢』だとか『テトロ』やこの『ヴァージニア』のような小規模で、また個人的な作品を見せられても満足しない。でももともとこの人はエイゼンシュテインを研究し、黒澤映画が好きでノーベル賞事務局に特例で黒澤明にノーベル文学賞を授与するように嘆願したような人で、根からの映画好きだろう。ものすごい名作とか傑作というのではもちろんないかも知れないがなかなかどうして面白かった。
物語は落ち目のオカルト作家が本のサイン会というプロモーションでとある小さな町にやってくる。その町でたまたま出会った少女殺人事件の解明と、作家が酔って夢の中でかつて殺された少女の幽霊と会い過去の事件の真相を知っていく経緯と、この町にかつて滞在したエドガー・アラン・ポーに導かれて、その2つの解明と作家自身が悩まされている娘の事故死に対する罪悪感からの解放が、渾然一体となって描かれていく。しかし最後は場面が一転して、編集者を前にそうして書き上がった本の出版の話をしているという枠がついており、この今語られ、観客が見せられてきた物語自体のどこからどこまでが本当のことであるかは曖昧だ。
もちろんこういう話法自体はそう珍しいものではない。ほとんどの映画が、製作者が提供する嘘の物語やその映画的描写を、観客がそれを承知の上でそれに身をまかせ、真実らしいものとして受け入れることで安心しするという一つの制度化されたもので、支配的なイデオロギーを再認・強化するものである中で、たとえばゴダールであるとかハネケであるとか、その制度化されたものを壊そうというものもある。そういう意味では、監督の「個人的」とか「親密」いう性格を持った映画は一つのあり方として、「新しい焼き直し」ではない存在理由を持つかも知れない(少なくとも作っている本人にとって)。ボート事故で息子ジャン・カルロを失っているフランシス・コッポラが描く娘をボート事故で失ったという設定の作家は、コッポラのアルターエゴであり、この映画を作ることで何らかの解放を求めているのだろう。
そんなことはともかく、この映画を楽しみに、ぜひともと思って見にいったのは、エル・ファニングが出ているからだった。『SOMEWHERE』や『スーパーエイト』のエルはとても魅力的だった。『SOMEWHERE』はフランシス・フォードの娘ソフィア・コッポラの監督作品で、フランシスも制作などに関わっている。これはまた別の意味で監督の「個人的」問題だけれど、娘の映画の製作や娘の映画で知ったエル・ファニングの魅力にフランシスが取りつかれたのだと思う。単純にロリータ趣味とかいうのは、七十歳を過ぎた(もっと若くても)男性の生の源泉というものを知らない人の言うことだ。ただ予告編でもそのシーンの彼女がやや気がかりに見えたのだけれど、実際に映画で見て、やはりそのシーンでの彼女の表情が、透明感のある良い意味で(女の)子供からやや離れて普通の女のものに見えた。いつまでも12、13、14歳でいられるはずはなく、成長するのは当然だけれど、彼女が良い方向に脱皮していくことを望んで止まない。
そうそう、この映画にはポーが出てくるけれど、エドガー・アラン・ポー作品の映画化でいちばん有名なのはたぶんルイ・マル、ロジェ・ヴァディム、フェデリコ・フェリーニの3人が監督したオムニバス映画『世にも怪奇な物語』だろう。その中のフェリーニ編『悪魔の首飾り』でテレンス・スタンプ演じるアル中の俳優はフェラーリのオープンカーを飛ばして、工事中の高速道路で張られていたワイヤーに突っ込み首が落ちる。この『ヴァージニア』で作家が回想する(と言っても作家自身は目撃していないのだが)娘のボート事故は、牽引中の2隻のボートのロープに突っ込むというもので、このフェリーニの映画が思い出された。事故の顛末は描かれないが、もしや作家の娘も同じ死に方だったのかも知れない。(というより、本当のところは、この作家も娘も、その事故も虚構だから、こんなことを言っても意味はない。)
ラッコのチャーリー
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